SES
SES契約で現場から残業指示は違法?正しい理解と対応方法を解説
2023.11.14
SES契約でクライアント企業に常駐して働くITエンジニアの中には、頻繁に残業指示を出されて悩んでいるという人もいるかもしれません。
SESの現場において残業指示を出されるのは、適切なことなのでしょうか。これを判断するためには、SES契約に対する正しい理解を深めるとともに、状況に応じた適切な対応方法を知ることが大切です。
この記事では、SES契約で現場から残業指示を出されるのは違法かどうか、さらにSES契約に対する正しい理解と対応方法について詳しく解説します。
目次
SES契約(準委任契約)とは?
ITエンジニアの働き方としてよく見られる契約形態が、SES契約です。そもそもSESは「System Engineering Service」の頭文字を取ったもので、システムやソフトウェアの開発、保守・運用など、特定の業務に対してITエンジニアの労働力を提供するサービスを言います。具体的には、SESベンダー企業がクライアント企業のオフィスへITエンジニアを派遣し、ITエンジニアは現場に常駐する形で技術的サービスを提供します。
SES契約においては、業務委託契約の1つである準委任契約を締結するのが一般的です。準委任契約は民法656条に規定されており、SES契約においては以下のような特徴があります。
- SES契約のITエンジニア(=労働者)とクライアント企業(=注文主)は雇用関係にない。雇用関係にあるのはSESベンダー企業(=請負業者)とITエンジニア(=労働者)
- 業務内容は契約で定められたもののみ
- 労働時間に対して報酬が支払われる
- 成果物に対しての責任を負わない
- 指揮命令権は請負業者であるSESベンダー企業にあり、注文主であるクライアント企業には指揮命令権がない
ポイントは、「クライアント企業からの指揮命令権がない」という点です。SES契約のITエンジニアに指揮命令を行えるのは、雇用関係にあるベンダー企業の作業責任者であり、それ以外からの指揮命令は「偽装請負」という法令違反になります。
SES契約の指揮命令違反について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
▶SES契約で指揮命令に違反するケースと対処法を解説
またSES契約においては、「報酬は作業時間の対価であり、成果物に対する責任を負わない」という点も重要です。ITエンジニアが期待した成果物や結果を出せなかったとしても、クライアント企業は労働時間に対して報酬を支払わなければなりません。
これに対して、業務において完成させた成果物に対して報酬が支払われる契約形態を「請負契約」と言います。同じ業務委託契約ではありますが、報酬の定め方や成果物に対する責任の有無に違いがある点に注意が必要です。
SES契約で現場から残業指示は出せるのか?
SES契約について理解できたところで、SES契約で現場から残業指示を出されることは違法かどうかについて見ていきましょう。
結論を先に言えば、SES契約で現場から残業指示があったとしても、必ずしも違法であるとは言い切れません。条件を満たしていれば、SES契約の残業指示には従う必要があります。
条件を満たせば出せる
SESの現場は、クライアント企業の従業員・責任者の他に、他社パートナー従業員、SESベンダー企業(自社)の従業員・責任者などが混在していることがあります。
すでにお伝えしているように、SES契約におけるクライアント企業はITエンジニアに対しての指揮命令権を持ちません。しかし、クライアント企業と自社の従業員が混在しているような状況で残業指示があった場合には、それが誰からの指示であるかによって、違法かそうでないかの判断が異なるのです。
すなわち、SESの現場であっても、残業指示を出しているのが自社の責任者の場合、その指示は適法であると言えます。SESで派遣されているITエンジニアの指揮命令権はベンダー企業(自社)にあるため、特に問題はありません。
一方で、残業指示を出しているのがクライアント企業や他社パートナーの場合には、偽装請負となって違法です。
SESの現場において残業指示が出された場合には、指示を出している相手が誰であるかをしっかり確認しましょう。
なお、SES契約(準委任契約)における指揮命令の判断については、厚生労働省の資料に質疑応答の詳細が記載されています。気になる人は参考にしてください。
参考:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集|厚生労働省
派遣契約の場合
SES契約は、発注者であるクライアント企業に常駐して働く形態のため、派遣契約と混同されることがあります。しかしSES契約と派遣契約では法律上の明確な違いがあるため注意が必要です。
派遣契約は、厚生労働省所管の労働者派遣法によって規定されており、以下のような特徴があります。
- 派遣社員(=派遣労働者)とクライアント企業(=派遣先)は雇用関係にない。雇用関係にあるのは派遣会社(=派遣元事業主)と派遣社員(=派遣労働者)
- 業務内容は契約で定めたもののみ
- 労働時間に対して報酬が支払われる
- 成果物に対しての責任を負わない
- 指揮命令権は派遣先のクライアント企業の指揮命令者にある
「クライアント企業と直接の雇用関係がない」「契約に定められた業務以外は行わない」「報酬は作業時間の対価であり、成果物に対する責任を負わない」という点に関しては、SES契約と同じです。
大きな違いは指揮命令権で、派遣契約の場合には派遣先、つまりクライアント企業側に指揮命令を行う権利があります。そのため派遣契約のITエンジニアが常駐する場合には、クライアント企業の指揮命令者から業務の指示や残業の指示を受ける必要があります。
一方で、クライアント企業の従業員であっても、指揮命令者以外がITエンジニアへ残業指示などを出すのは違法です。またクライアント企業以外の人がITエンジニアへ指示を出すことは「二重派遣」に当たり、こちらも違法となります。
つまり派遣契約において、常駐先クライアント企業の指揮命令者以外から残業指示を受けた場合には、違法となるのです。
請負契約の場合
SES契約とよく似た契約形態として、請負契約があります。
請負契約も業務委託契約の一つであり、SES契約が成果物に対しての責任を負わないのに対し、請負契約では「成果物を完成させること」に対する責任を負っています。そのため請負契約においては、業務を遂行して成果物を完成させ、納品、検収を経て初めて報酬が支払われることになります。
請負契約は成果物を納品する責任を負っているため、必ず納期が設定されています。当初のスケジュール見積もりが甘かったり、クライアント企業から急な仕様の変更や追加を受けることもあり、納期に間に合わず残業が発生するケースも少なくありません。
しかし、請負契約で働くITエンジニアに対してクライアント企業から残業指示があった場合、指揮命令違反となります。注文者であるクライアント企業と労働者であるITエンジニアは対等の関係にあり、クライアント企業に指揮命令権がないからです。
そのため、もし請負契約で指揮命令違反の残業指示が出された場合には、相応の対応を取る必要があります。
なお、請負契約で行われる受託開発は、近年縮小傾向にあります。大きな理由としては、多くの企業においてシステムの内製化が進んでいること、またクラウド化やノーコード開発の技術が進んだことによってプログラミングの作業が簡略化されつつあること、オフショア開発へ移行を検討する企業が増えていることなどが挙げられます。
自分の契約がどれかの確認
ITエンジニアとしてクライアント企業へ常駐して働いている場合には、自分がSES契約、派遣契約、請負契約のどれであるかを確認し、雇用関係と指揮命令関係を明確にしておくことが大切です。
残業の指示を出しているのがクライアント企業の責任者だった場合、以下のような判断になります。
- SES契約→違法
- 派遣契約→適法
- 請負契約→違法
同様に、残業指示を出しているのが自社の責任者だった場合、以下のような判断になります。
- SES契約→適法
- 派遣契約→違法
- 請負契約→適法
なお、システム開発の現場では近年、アジャイル型開発を採用するところが増えています。これを受けて厚生労働省は2022年、アジャイル型開発における派遣・請負の要件を明確化した疑義応答集を公開しています。
システム開発にはウォーターフォール型開発、スパイラル型開発などさまざまな手法があるなか、近年主流であるアジャイル型を名指しで指定しているところから、政府によるSES契約に対する規制を強化しようとする動きが見て取れます。
参考:「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」 (37号告示)に関する疑義応答集(第3集)|厚生労働省
SESを始めとする契約形態は、法整備や国の方針と大きく関与する部分です。政府の規制や考え方がどのようになっているか、今後も注視していく必要があります。
現場から残業を指示されたらどう対応するのがよい?
最後に、現場から実際に残業指示を出された場合には、どのような対応をするのが良いのでしょうか。
この場合、SES契約で確認すべきなのは以下の2点です。
- 指揮命令を出している人が指揮命令権を持っているか
- 指揮命令の内容が契約内容に含まれるか
このどちらか、あるいはいずれもに該当する場合には違法となるため、指示に従う必要はありません。とはいえ、同じ現場で働く立場として、現場責任者からの指示を拒否したり無視することは難しいかもしれません。
その場合には、「いったん自社の担当者(責任者)に確認させていただきます」のように断りを入れ、自身の指揮命令者へ連絡して対応を任せましょう。指揮命令は労働者個人が「どうするべきか」と抱え込む問題ではなく、契約を行う企業同士で交渉してもらうのが最善です。
【まとめ】
SES契約のITエンジニアが現場で残業指示を受けた場合には、指示を出した人がクライアント企業か自社の担当者かを確認することが大切です。もしクライアント企業の従業員からの指示なら違法となるため、「自社担当者に確認します」のような形で保留し、然るべき人に対応を任せると良いでしょう。これからSESで働きたいと考えている人は、Remotersまでお気軽にご相談ください。