SES
SES契約で指揮命令に違反するケースと対処法を解説
2023.10.26
SES契約において、クライアント企業はITエンジニアに対して指揮命令権を持ちません。SES契約は請負契約の一種である準委任契約に該当するため、クライアントがSES契約のITエンジニアに対して指揮命令を行うことは、「偽装請負」という法令違反になります。
しかし実際のところ、どのようなケースが指揮命令に該当し、どうすれば偽装請負となるのかを判断するのが難しいと感じている人もいるのではないでしょうか。
この記事では、SESを利用する企業の担当者に向けて、SES契約で指揮命令に違反するケースにはどのようなものがあるか、またその対処法について詳しく解説します。
目次
SES契約とは?
そもそもSESとは、「システムエンジニアリングサービス」の頭文字を取った言葉です。IT業界において、受託会社がクライアント企業へエンジニアを派遣し、システム開発や運用・保守などの業務を提供するサービスのことを言います。
契約形態としては準委任契約に該当し、SES契約に従事するITエンジニアは「業務を遂行すること」に対して報酬が支払われます。つまりSESにおける労働の対価は、業務によって完成した成果物に対してではなく、労働したことそれ自体、具体的には労働時間に対して支払われるということです。
SESを活用することは、クライアント企業、ITエンジニア個人の双方にメリットがあります。
まずクライアント企業にとっては、必要な現場に必要なタイミングでITエンジニアを確保できることから、自社でITエンジニアを採用・育成するための労力やコストを抑えられます。ITエンジニア個人にとっても、プロジェクトごとにさまざまな現場を経験できるため、幅広い実績や専門性の高いスキルを習得できる機会を得られます。
派遣契約との違い
SES契約と混同されがちなものとして、派遣契約が挙げられます。
「クライアント企業へ派遣されて業務を遂行する」という点だけを見れば、SES契約、派遣契約ともに同じもののように感じられるかもしれません。しかし両者は似て非なるものであり、規定されている法律や所轄官庁、性質に大きな違いがあるため注意が必要です。
派遣契約は厚生労働省所管の「労働者派遣法」(正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」)によって定められており、派遣元企業が労働者を雇用してクライアント企業へ派遣するという契約です。法規定により、派遣社員はクライアント企業から指揮命令を受けて労働に従事することになります。
一方SES契約は民法第643条「委任」および第656条「準委任」によって定められており、SES受注者(=ITエンジニア)には業務を遂行することを目的として報酬が支払われます。このため業務の遂行に関する指揮命令権を持っているのはSES契約の受託会社であり、発注者であるクライアント企業にはSES受注者に対する指揮命令権がないということなのです。
指揮命令に該当するケース
ここでは、SES契約において指揮命令に該当するケースを具体的に見ていきましょう。意識すべきなのは、クライアント企業とSESのITエンジニアが雇用関係にはないという点です。SES契約における発注者側と受注者はあくまで「対等な関係」として「協働」している立場であり、業務の遂行はITエンジニアが自発的に進めるものであるというスタンスを頭に入れておくと、判断がしやすくなります。
業務プロセスについての指示
システム開発の業務プロセスに関して、クライアント企業の担当者がSESのITエンジニアへ現場で直接指示を行う行為は、指揮命令に該当します。
具体的に、以下のようなケースは指揮命令であると言えます。
- 現在使用しているものとは別のプログラミング言語や技術スタックを使用させる
- 突然の仕様変更に対して修正対応をさせる
- 優先順位を変更して別の業務を先に行わせる
- 別のプロジェクトへ配置を変更する
システム開発の現場では仕様変更や見直しが頻発するため、つい現場のITエンジニアに直接指示を出したくなるかもしれません。しかしSES契約においては、契約書に記載された業務プロセスや業務内容以外の指示は指揮命令とみなされる可能性があり、注意する必要があります。
作業時間についての指示
始業や終業、休日や残業など、契約書に記載された以外の作業時間に関する指示は、指揮命令に該当します。
具体例を挙げると、以下のようなケースがあります。
- 始業時間や終業時間を変更する
- 朝礼の参加を義務付ける
- 常駐先の法定時間や休憩時間を遵守させる
- 特定の期間の休暇を取得させる
- 残業させる
スケジュールの変更や見直しによって、現場のITエンジニアに残業を頼みたいというケースがあるかもしれません。しかしSES契約において、クライアント企業には作業時間を指示する権限がないことを留意しておきましょう。
業務場所についての指示
業務を遂行する場所に関する指示は、指揮命令に該当します。もし契約内容に記載された業務場所以外でITエンジニアを作業させたい場合には、事前にSES受託会社へ相談をしましょう。
具体的に、以下のようなケースが指揮命令に当たります。
- 勤務場所を本社や別の事業所へ変更する
- 常駐先の休憩場所を指示する
注文範囲外の業務についての指示
契約でかわされた注文範囲を超えての業務についての指示も、指揮命令に該当します。
具体的に、以下のようなケースが挙げられます。
- システム開発とは関係のない事務作業などを依頼する
- 別プロジェクトの開発業務を指示する
指揮命令違反を行ったらどうなる?
もしクライアント企業が業務で指揮命令違反を行ってしまった場合には、どうなるのでしょうか。結論を先に言ってしまえば、指揮命令に違反すると「偽装請負」という法令違反に当たります。ここでは、偽装請負の規定についてご紹介するとともに、偽装請負となった場合の処分について詳しく見ていきましょう。
偽装請負に繋がる可能性がある
クライアント企業がSESのITエンジニアに対して指揮命令違反を行った場合、偽装請負に繋がる可能性があります。
偽装請負とは、本来は指揮命令関係に該当しないはずの契約でありながら(=請負契約や業務委託契約)、実際には指揮命令権を行使するという違反行為のことです。
指揮命令権を行使するには、「労働者派遣」または「労働者供給」のための厚生労働省の許可が必要になります。SES契約では労働者派遣事業の許可を受けていないことから、労働者派遣法違反に該当するのです。
また職業安定法44条では、一部の例外を除き、労働者供給事業を行うこと、およびその労働者供給事業によって供給される労働者の指揮命令下での労働を禁止しています。なお、ここでいう「労働者供給」とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」を指します。
参考:労働者供給事業(労供事業)とは|厚生労働省
クライアント企業とSESのITエンジニアは雇用関係にないため、指揮命令を行うことは労働者供給に該当します。このため、偽装請負に繋がることになるのです。
偽装請負となった場合の処分について
偽装請負が発覚した場合、違反している法令に基づいて処分が行われます。
労働者派遣法に違反した場合には、労働者派遣法第59条1号に基づき、「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」が課されます。法人の代表者や代理人、使用人その他の従業者が偽装請負を行っていた場合、労働者派遣法62条により、法人に対しても罰則が課されます。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索
職業安定法に違反した場合には、職業安定法64条9号に基づき、供給元・供給先双方に対して「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」が課されます。法人の代表者や代理人、使用人その他の従業者が偽装請負を行っていた場合、職業安定法67条により、法人に対しても罰則が課されます。
参考:職業安定法|e-Gov法令検索
偽装請負が「労働者供給」として労働基準法違反の「中間搾取」に該当する場合には、労働基準法118条1項に基づき、供給元の事業主に対して「一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が課されます。違反者が事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合にも、労働基準法121条1項により、事業主に対して罰則が課されます。
参考:労働基準法|e-Gov法令検索
【まとめ】
SES契約においては、契約書に規定された以外のことを指示すると偽装請負とみなされる可能性があります。SES発注を行っている企業は、ITエンジニアへ直接指示を行う前に契約書を確認し、必要に応じてSES受託会社にも確認を取りましょう。
RemotersはSESエンジニア派遣も行っているので、これからSESを利用しようと考えている企業の方はお気軽にお問い合わせください。